「俺らは打たれ強いんだ」 延命図る石破政権、立ちはだかる高い壁 鈴木春香 国吉美香 川辺真改2024年10月29日 6時00分
- 羅夢 諸星
- 2024年10月29日
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28日未明。石破茂首相は、東京・永田町の自民党本部4階の部屋で開票を見守っていた。すでに報道各社は自民、公明両党の苦戦を伝えており、一部では「自公過半数割れ確実」と速報された。
午前1時すぎ、首相が待つ部屋へ、同じ4階の自室から森山裕幹事長、小泉進次郎選挙対策委員長が集まった。
20分間の議論の後、小泉氏が部屋を出た。事前に「身柄は預けます」と首相に伝えていた小泉氏は、辞意を固めていた。「誰かが責任を取らなきゃいけない」。そう言い残し、党本部を離れた。
一方、各社の取材に応じた森山氏は「目標を達成できず、大変申し訳なく思う」と述べたが、進退を問われると「責任を果たしていきたい」と言い切った。首相と森山氏の続投方針が固まった。
首相は、勝敗ラインを「自公過半数」として衆院選に臨んだ。だが、日を追うごとに情勢は悪化。投開票日の数日前から「過半数割れも」の観測は出ていた。それでも、首相は身を退くつもりはなかったようだ。
開票が進んでいた27日夜、首相は党本部にいた官邸幹部らと「頑張らなきゃいかん」と励ましあった。自身の進退に悩む様子はなく、側近の一人には「幹事長に辞めると言われたら困る。森山さんに辞めないように言ってよ」と繰り返した。
9月の自民党総裁選で高市早苗前経済安全保障相に辛勝した首相の党内基盤は、決して強くない。厳しい選挙結果を受けて、党内から「辞任してもらわないと困る」といった責任論も出ている。
だが、続投を決めたトップを変える仕組みは、総裁選以外にない。長年、非主流派に甘んじてきた首相自身が、そのことを誰よりも知っている。心情を代弁するように、首相側近が言う。
「これくらいでは大丈夫。俺らは打たれ強いんだ」(鈴木春香、国吉美香)
「親和性が高い」 森山氏から電話
衆院選から一夜明けた28日午後、石破茂首相は自民党本部8階のホールで記者会見に臨んだ。
「心底から反省をし、生まれ変わっていかなければなりません」
敗軍の将よろしく語り始めた首相だが、その先は「切れ目のない経済対策を実施していく」「日本創生の取り組みを早急に具体化させる」と、選挙結果を忘れたかのような演説が続いた。記者から進退を問われると、まっすぐ正面を見たまま「職責を果たしてまいりたい」と言い切った。
しかし、少数与党に転じた自公政権が、これまでと同じように政策を実行できる可能性は低い。現状の国会勢力のままでは、予算案も個別法案もいずれかの野党の協力なくして成立しない。何より近く召集される特別国会の首相指名選挙で勝たなければ、石破政権はその時点で終わる。
今後どのように多数を確保するか。水面下のうごめきが、早くも始まっている。
28日朝、日本維新の会の幹部の携帯が鳴った。「親和性が高いと思っています。これからよろしくお願いします」。自民党の森山裕幹事長による、協力依頼だった。
もちろん戦いを終えたばかりの野党は、簡単には首を縦に振らない。維新幹部は、あいまいに返答して電話を切った。
衆院選で自公が獲得したのは215議席だ。仮に与党系の無所属を勢力に加えても、過半数までまだ12議席足りない。
不安定な状況を解消するためにはいくつか方法があるが、最も現実的な選択は衆院選で28議席を得た国民民主党との協力関係を構築することだ。
首相は28日の会見で、連立政権の枠組み拡大に慎重姿勢を示す一方、「それぞれの政策を謙虚に採り入れていくことを協議する」と政策ごとの部分連携を図るとした。
その交渉を担うのも、森山氏になりそうだ。「党人派」として国会対策の経験が豊富な森山氏は、これまでも与野党間の調整役を何度も果たしてきた。
「責任取って」 露骨に辞任要求
維新や国民民主が、大きく議席を減らした自公に積極的に手をさしのべる理由はなく、交渉は難航が予想される。石破政権にはその前に、より大きく高い壁もある。
「本当に厳しいものがあった。党執行部には責任を感じて頂きたい」
小林鷹之元経済安全保障相は27日夜、「当選確実」が伝えられても万歳をせず、語気を強めた。山口壮元環境相も28日未明、「どれだけの議員が落ちたことか。責任を取って即刻辞めて欲しい」と露骨に首相の辞任を求めた。
裏金問題により非公認での戦いを強いられた萩生田光一元政調会長らが、党執行部への批判を強める可能性もある。党内融和をいかに図るかは、野党との連携以上に大きな課題になりそうだ。(鈴木春香)
公明・石井代表、辞任を強く示唆
公明党も8議席減の24議席と大きく退潮。石井啓一代表が埼玉14区で競り負け、日本維新の会との全面対決となった大阪4選挙区も全敗した。
石井氏は28日の記者会見で、「大変残念な結果となった。逆風をはねかえす党自身の力量が足らなかった」と総括した。代表としての進退は明言を避けたが、「国会議員でなくなればいろんな困難が伴うと思う」と語り、辞任を強く示唆した。党内では、後任選びの作業が始まっている。
敗因について、公明内では自民党の派閥裏金問題を挙げる向きが強い。だが支持母体である創価学会の集票力の低下も否定できない。今回衆院選での比例代表の得票数は596万票で、1996年以降の現行制度で過去最少となった。
自公党首は28日に政策合意を交わし、引き続き連立パートナーでいることを確認した。だが、公明にとって自民との連立は常にメリットとデメリットが相半ばする。
今後の政策決定も与党のみで結論を得ることが難しくなる。公明の存在感が薄まることは避けられず、当面いばらの道が続きそうだ。(川辺真改)
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